現役Virtual女子大生

架空の人物は叩いても怒られません

自我の無いメンヘラ女

待ち合わせをしたのは最寄りの駅に併設されている某カフェチェーン店。

お昼ご飯も食べ終え一休み、そこからここまで足を運んでやってきている。

 

本日会うのは中学の時の同級生。

特に当時接点があったわけでもないし、現在仲が良いと言うわけでもい。

彼女とはSNSで繋がっていた。

高校生のときにTwitterブームみたいなのがあって、そこで始めた人からみんなにつられるように登録した。当時フォローする人なんて地元の友人や中高の同級生、すこしの芸能人くらいだったから、仲が良くなくても知ってるやつはとりあえずフォローしていたもんだ。

そのうちの一人。私のフォロワー。

なんとなくいいねした投稿に向こうが反応して会話が始まり、なんとなく会うことになった。

 

今日日、SNS上で知り合った人間と会うということにあまり抵抗がなくなってきたであろう。もちろん私もそうだ。

趣味を通したコミュニティで出会った人たちと飯を食いにいったり、遊んだり、リーダー的存在の人の家に仲間内で泊まりのパーティーなんかもした。

いい人ばかりのあたりを引き続けていただけだからかはわからないが、現在こういったことに抵抗は殆どない。

 

しかし今回のケースは異例だ。

少しばかりの不安と少しではすまないほどの緊張だった。めちゃくちゃ心が抵抗してる。

 

というのも同じ学校であったにしろ、中学生活3年間で会話もろくにしたこたないし、名前と顔が一致するかしないかあやふやな存在だし、どんな声なのかもよく覚えていない。妙な気まずさが続く会話が生まれると考えただけでも胃が痛い。

なにより今から会うやつは異性だし、SNS上では狂ったような投稿が絶えず、メンヘラである。現役女子大生だ。

メンタルがヘラりとしていて、SNSで好き放題いいブチかます所や、学生までは私も似たようなもんかもしれないけれど、こいつは半年おきに彼氏が変わっている。

SNSで把握済み。

私に彼女はロクにできたことなどない。

同じツイッタ常駐メンヘラでもこんなにも恋愛経験に差が生じるものなのか。

 

ちなみに今日会うのに下心など1mmもない、ただ流れに身を任せ会話をしていた結果がこれだ。

 

男が女と一対一で会うというのに下心が無いとはいかがなものかと、おいおい嘘つけこのクソ童貞が、だからまともに彼女できねえんだよ雑魚が、なんて思われるだろうが、私は彼氏をとっかえひっかえするような人間が嫌いだ。SNSでファンシーな飯の写真をあげまくり、別れりゃ病みツイートが1週間は止まない。

こんな女に魅力などひとつもねえ。

どんだけ可愛くても、どんだけスタイルがよかろうが、知ったこっちゃない。

視力の悪い私にそんなものは通用しないのだ。

その証拠に普段かけているメガネを外してきているのだから。

 

嘘です、授業を受ける時と車運転するときしかメガネかけません。 

 

 

駅のカフェに到着するまでの間、自責の念に駆られた。

このままバックレることだってできる、でもついこの間「ドタキャンするやつは全員死ね」なんてツイートをしてしまった私がバックレることなんて不可能だ。

数日前の自分を重くそ殴りその投稿をやめるよう説得したい。

だんだんと駅に近づく。

 

重たい足を引きずるように入店した。

 

私は金に関する仕事の話や先輩・上司の絡むような会ではないとわかれば、基本的に集合時間ぴったりかそれより遅く着く。

ギリギリまで家にいたいし、会いたくない人がいるところに5分も早くついてそわそわしている時間すら無駄だ。

 

集合時間14:30、私は2分遅れで到着した。とりあえず謝罪はしよう。

店の自動ドアが開く前から彼女の居場所に気づいた。

ファミレスとか居酒屋で「待ち合わせなんすよ~」って遅れて入店し、店員に頭下げながら店を歩きまわるの恥ずかしいから目立つ所に座っとるのはめっちゃありがたいんだけど、流石に入り口から真正面の席を陣取るこの女はどういう神経をしているんだろうか。

さすがメンヘラである。

 

「あっ、久しぶりぃぃぅぃぅぅぅ変わってないねぇぇぇぅぃぅぃぅえ」

 

なんだこのブリブリ女。顔と名前と声が過去の記憶とまったく一致しない。

 

「あっ、お久しぶりですう。ぼくですう」

「なんで敬語なのおぉおおぃいぅぅょyぅおうおう」

 

彼女に会うことへの不安と緊張は一瞬で溶けて消えた。

私はまったく彼女について覚えていない。実質初対面である。

そしてこのブリブリしたアホっぽい口調でバカだとみなし、マウントをとってやろうと思った。

 

「ごめんなさい、あんまり昔の思い出覚えてないから初対面みたいな感じで…」

「だねぇぇぇぇ。でも初対面だとしたら遅刻はひどいよぉぉぉぉっぇぇぇっう??」

 

痛い所を突かれた。

「すませんでした…」

「だからなんで敬語なのおぉおおぃいぅぅょyぅおうおう」

「へ。へぇ…」

 

こういう奴らはなぜ敬語を嫌うんだろう。

たとえ年下だろうが、たとえ部下だろうが、たとえバカだろうが、初対面の相手には敬語を使うのが私なりの流儀だ。

別に私かて敬語が好きなわけではない。

でもなれなれしい感じを突然だすのもかっこ悪いし、いきなりタメ口が使えるイケイケな人間ではないのだ。

すぐタメ語でいいよというやつはだいたい信用できない。

タメ語でいいよとすぐ言うやつは、優しさというステータスを履き違えている。

みんなとタメで話しているからみんなから好かれ、みんなから信頼され優しい人間であると自分は思い込んでいそうだ。

こういうやつは、ゾンビに囲まれた教室でみんなをまもるために自分一人が犠牲になる。しかも序盤で。ダサい。

 

「いっちょコーヒー買って来るね」

 

とりあえず私は自分の分のコーヒーを注文して席に戻る。

 

お互いの会話といえば小学校の頃の思い出、無難な話題からスタートした。

彼女とは十数年ぶりの再会になるのがだ、いかんせん同じクラスにもなったこともないので共通の思い出話は殆ど無い。

この場は私が回さなくてはいけなかった。

大人数の飲み会でもないのに、たった二人の空間なのに、会話を止めては行けないという空気がただただシンドい。

 

マッチングアプリにドハマリしている連中は、どんだけ優れたコミュニティ能力を持ち合わせているのだろう。

一夜の行為にどれほど努力しているのだろう。

あれだけ馬鹿にしていた連中を少し尊敬したのはこの日が初めてかもしれない。

今日はワンナイトがなくても努力しなければいけない。

小一時間のお話に私の持っている全力を彼女にぶつけなければいけないのだ。

誰かに命令されたわけでもなく、誰かにこの出来事をおもしろおかしく話すわけでもない。己のどこからやってくるかわからないプライドに懸けていかなければ。

 

私は4年の担任が禿げていた話し、運動会で組体操をした話し、プールに虫が浮いていて誤って飲み込んだ話し、無難of無難な思い出話をした。

彼女がメンヘラの恋愛体質であることは重々承知である。

彼女に「男の話し」をさせたら私の負けだ。ずっと俺のターン

お前に何一つ話題など振らせない。しょうもない思い出話しをするだけして帰るのだ。

 

 

 

 

20分ほど喋った。コーヒーも冷え、残りわずか。

これを飲みきってもう帰ろう。

小学校の話は10分も絶たず話題が尽き、思い出話もとうとう共通ではない中学高校の話へと進んだ。

 

どれだけしょうもない話しをしても頷いて話をきいてくれた。少し彼女への高感度があがった。

どれだけオチのない話しをしても笑ってきいてくれた。また少し彼女への高感度があがった。

私はおもろい話のストックはもうない。けれど彼女は会話の中から話題を引っ張ってきて話しを広げてくれた。さらに少し彼女への高感度があがった。

 

え?むっちゃ聞き上手でいい人じゃんこいつ。

 

「そういえば」

 

彼女から口を開いた。

 

この勝負、負けだ。

むこうから話題を振られれば聞くしかない。

今同じことをしてやっていたのだから、次はお前の番だぞと言わんばかりの真剣な表情だった。

 

「なんであのツイート、いいねしたの?」

 

そう。今回こうして会うことになったのもSNS上でのひとつの投稿からである。

 

内容こそどうでもいいものだったが、彼氏とまた別れたという旨のもの。

まあ彼女のこの手のツイートには見飽きていたので、もうやめとけ、私みたいなカス人間も貴様のしょうもないモンみてんだぞ、という皮肉を込めてのいいねだ。

 

しかしこうも直球になぜ反応したのと訊かれれば、こういう意味ですとは答えづらい。

困った私は「特に意味はない」と言ったけど、彼女は不服そうだ。

 

「彼氏のどんなとこが好きだったのか」と、過去の思い出をぶり返すような質問をした。

あれだこれだといろいろ返ってきた。

 

どれも男の普遍的なものだった。

 

めちゃくちゃしょうもなかった。

 

やっぱり常時彼氏彼女がいる人っつうのは、こうも相手の個性に気付かず生きていけるもんなんだと。

もっとその人の個性を知ってあげたほうがよかったのではと。

 

私は恋愛マスターではないのでアドバイスはできない。

ただそうかそうかと彼女の話しを心の中でツッコミながら真剣な顔して聞くだけだ。

 

「彼氏の好きなものが好きになる」、彼女は続けてそういった。

好きな人の好きなものが好きになる、というのは誰しもあることだと私は思う。

それは恋人に限らず、家族や好きな漫画家や音楽家、俳優でも作家でも、憧れの先輩でもなんでもよい。

 

実際私も好きな音楽家に影響を与えたアーティストなんかを調べて好きになったりもするし、好きな漫画家が舞台にした好きな街に実際に行ってみたりもする。

そんなおかしいことだとは思わない。

だけど、だけども彼女のそれは少し違った。

 

彼氏の好きだったアーティスト、彼氏の好きだった食べ物、彼氏の好みの彼女像。

それらを彼女はすべて受け入れようとして、それになりきろうとしていた。

 

つまり彼氏が変わるたび、彼女の好きなものはすべて書き換えられていく。

OSをクリーンインストールしたパソコンみたいだ。

機械的だと思った。

 

SNSに毎回あげる服装の写真のタイプがどんどん変わっていくのはこのせいか。

毎回いろんなアーティストのLiveにいくのはこれのせいか。

 

彼氏に尽くそうとするせいで、重たいと感じられ振られるのはこのせいだ。

彼女の生き方は少し不憫だ。

 

彼氏の好きなものを好きなる系女、みんなはよ世の中からくたばり消滅してほしいと思っていた。

 

彼女にはもっと自分の好きなものを見つけて没頭してほしい。

他人に合わせてどうこうしていくよりも、他人にどうこう言われてもこれが好き!みたいなものを1つや2つ見つけてほしい。

人に合わせて生きていくのも悪くないかもしれないけど、みんな彼女みたいな生き方をしていると思うと大変だと思う。

 

そんな話しをして店をでることになった。

「なにか進展があれば教えてくださいな。今日はどうも有難う御座いました」

 

彼女もこれから用事があるそうで、私が思っているより早めの解散になる。

よかったよかった。

このあとコンビニでアイスでも買って帰ろう。

 

別れ際。

「今度は飲み行こうねぇぇぇういええけうえぇいいぅぅ」

彼女と飲みには行きたくないなと思う。